2024.10.7 /

経営層に求められるサイバーセキュリティの責任と実践的対策

サイバー攻撃の脅威は日々増大し、経営層が自らリーダーシップを発揮し、主体的に対策を講じることが求められる時代になりました。これまでに多くの企業がサイバー攻撃の被害を受け、経済的な損失やブランドイメージの低下を招いています。このような状況下で、サイバーセキュリティ対策は全社的な取り組みであると同時に、経営者の責任範囲でもあります。

特に、政府が策定した「サイバーセキュリティ行動計画」や「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」は、経営層が果たすべき役割と具体的な対策について明確に示しています。この記事では、経営者が理解し、実践すべきサイバーセキュリティ対策について、5つの重要な項目に分けて解説します。

 

1. 経営層に求められる責任とリーダーシップ

政府の行動計画に基づく責任

2022年6月、サイバーセキュリティ戦略本部は、重要インフラ企業向けのサイバーセキュリティ対策に関する行動計画を改訂しました。この計画では、経営層や監査役が悪意や重過失によって任務懈怠が認められた場合、第三者に対して損害賠償責任を負う可能性があることが明示されています。これは、企業がサイバー攻撃のリスクに十分な対策を講じなかった場合、経営層がその責任を問われるという厳しい指針です。

この指針に基づき、経営者はサイバーセキュリティを「IT部門だけの問題」ではなく、全社的な経営課題として捉える必要があります。サイバー攻撃は、いつどこで発生しても不思議ではありません。自社だけでなく、取引先や委託先のセキュリティ体制も考慮し、全体としてのリスク管理を行うことが不可欠です。

経営者のリーダーシップが重要

サイバーセキュリティ対策は、現場だけに任せるものではなく、経営層の積極的な関与と指導が求められます。経営者が自らリーダーシップを発揮し、サイバー攻撃のリスクを認識し、適切な対策を取るための方針を示すことが、組織全体の対応力を高めるカギとなります。

具体的には、経営層がサイバーセキュリティの責任者であるCISO(最高情報セキュリティ責任者)を任命し、全社的な対応体制を整えることが必要です。また、リスク管理のための予算を確保し、人材の育成や外部の専門家の活用も含めた対策を推進することが重要です。

 

2. サイバーセキュリティ対策の全社的な体制構築

サイバー攻撃のリスクに備えた準備

サイバー攻撃は、完全に防ぐことは難しいですが、事前にリスク管理の観点から適切な準備を行うことで、被害を最小限に抑えることができます。そのために重要なのは、組織全体でサイバー攻撃のシミュレーションを行い、発生時に迅速かつ適切に対応できる体制を整備することです。

例えば、サイバー攻撃を受けた場合に備え、以下のような具体的な対策を取ることが考えられます。

  • 端末の持ち出し禁止:社内の重要な情報が保存されている端末を外部に持ち出すことを制限し、外部からの不正アクセスや情報漏えいを防止します。
  • アクセス制御の徹底:社員やパートナー企業が社内システムにアクセスする際には、強力なパスワードや二要素認証を導入し、不正アクセスを防ぐ手段を講じます。
  • ソフトウェアの定期的な更新:最新のセキュリティパッチを適用することで、既知の脆弱性を利用した攻撃を防ぐことができます。

これらの対策は、一度導入すれば安心というものではなく、定期的な見直しと改善が求められます。サイバー攻撃の手口は日々進化しているため、経営者は常に最新のリスク情報をキャッチし、対応策をアップデートする必要があります。

 

3. 「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」に基づく基本原則

経営者が認識すべき3つの原則

経済産業省とIPAが策定した「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」は、経営者が自らリーダーシップを発揮するための3つの基本原則を示しています。

  1. 経営者のリーダーシップ
    サイバーセキュリティは、経営戦略の一部として位置づけられるべきです。経営者は、自らリスクを認識し、対策を推進する責任を負います。
  2. サプライチェーン全体への対応
    自社だけでなく、取引先や委託先を含めたサプライチェーン全体のセキュリティ対策を徹底することが必要です。特に、サプライチェーンの一部が攻撃された場合でも、自社に影響が及ばないように備えることが重要です。
  3. 情報開示とコミュニケーション
    経営者は、サイバーセキュリティに関する情報を社内外で積極的に共有し、インシデント発生時に迅速な対応ができるよう、関係者との円滑なコミュニケーションを確立する必要があります。

 

4. サイバーセキュリティ経営の10の実践的項目

ガイドラインは、経営者がCISOなどに指示し、定期的に報告を受けるべき10の重要項目を掲げています。これらの項目を実践することで、組織全体のセキュリティ体制が強化されます。

  1. リスク認識と方針策定
    サイバーセキュリティリスクに対する方針を策定し、社内外に対して公表します。
  2. リスク管理体制の整備
    サイバーセキュリティリスクを組織全体で管理し、一貫した対応方針を取る体制を構築します。
  3. 予算と人材の確保
    セキュリティ対策に必要な予算と専門人材を確保し、リスク軽減策を実行します。
  4. リスク対応計画の策定
    サイバー攻撃に備えたリスク対応計画を策定し、定期的に見直しを行います。
  5. 多層防御の導入
    重要な業務システムや端末に対して多層防御を導入し、不正アクセスや攻撃を防止します。
  6. PDCAサイクルの導入
    サイバーセキュリティ対策の計画・実行・評価・改善を継続的に行い、効果を高めます。
  7. 緊急対応体制の整備
    インシデント発生時に迅速に対応できる体制を整え、事前にシミュレーションや訓練を行います。
  8. 業務復旧体制の確立
    インシデント後の業務復旧を迅速に行うため、復旧計画を策定し、日常的に訓練を実施します。
  9. サプライチェーン全体のセキュリティ対策
    取引先や委託先を含めたセキュリティ体制を整備し、サプライチェーン全体での対応を推進します。
  10. 関係者との情報共有とコミュニケーション
    サイバー攻撃に関する情報を社内外で共有し、連携体制を強化します。

 

5. セキュリティ対応の遅れが許されない時代

サイバーセキュリティは、単に技術的な問題ではなく、企業の信頼性やビジネスチャンスに直結する経営課題です。例えば、海外では既にサイバーセキュリティの要件を満たしていない企業は取引から排除されることが一般的です。日本国内においても、今後ますます厳しいセキュリティ対策が求められるようになるでしょう。

セキュリティの対応が遅れると、取引先や顧客からの信頼を失い、競争力の低下につながります。さらに、サイバー攻撃を受けた場合の損害賠償や法的責任が経営層に及ぶリスクも高まります。そのため、経営者は積極的に対策を講じ、企業全体でサイバーセキュリティを強化していく必要があります。

 

まとめ

サイバーセキュリティは、もはやIT部門だけの問題ではなく、経営層が主体的に取り組むべき重要な経営課題です。政府が示した行動計画やサイバーセキュリティ経営ガイドラインに基づき、経営者は自らリーダーシップを発揮し、全社的な対応体制を整えることが求められています。

本記事で紹介した5つの項目に基づき、具体的な対策を講じることで、サイバー攻撃に対する備えが整い、企業の持続的な成長にもつながるでしょう。サイバーセキュリティに対する取り組みは、単なる防御策ではなく、企業の信頼性と競争力を高めるための重要な戦略の一環です。経営層は、この課題に真摯に向き合い、適切なリーダーシップを発揮することが求められます。

サイバージムでは経営層向けのトレーニングも実施しておりますので、ご活用ください。

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